過敏性腸症候群(IBS)の特徴
- 症状:腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などが慢性的に続く
- 原因:明確な器質的異常がない。自律神経の乱れ、腸内環境、ストレスなどが関与
- タイプ:
- 下痢型(IBS-D)
- 便秘型(IBS-C)
- 混合型(IBS-M)
- 分類不能型(IBS-U)
鍼灸によるアプローチ
1. 自律神経の調整
IBSは交感神経と副交感神経のバランスの崩れが大きな要因。鍼灸では以下のような経穴を使って整える。
2. 腸の運動調整
腸の動き(蠕動運動)を整えることで、便秘や下痢を軽減。
3. 精神的ストレスの緩和
ストレスがIBSを悪化させるため、リラックス効果の高いツボを使用。
鍼灸治療の実際(例)
【1回の治療構成】
- 所要時間:約30〜45分
- 使用する経穴:個人の症状により選定(例:天枢+足三里+神門+太衝など)
- 刺鍼方法:細く浅めの鍼でソフトに。場合により温灸併用。
【治療頻度】
- 初期:週1〜2回 × 4〜6週
- 改善がみられたら、隔週または月1のメンテナンス
エビデンス(研究報告の概要)
いくつかの臨床研究では、鍼灸がIBSの症状を有意に改善することが示されています。特に以下のような報告があります:
- 鍼灸はIBS症状(腹痛、排便異常)を改善し、QOLを向上させる(中国、ランダム化比較試験)
- 腸内セロトニン調節や迷走神経への影響も報告されている
注意点
- 器質的疾患(がんや炎症性腸疾患など)との鑑別は重要
- 精神的要因が大きい場合は、心理療法や栄養指導と併用が望ましい
- 効果の出方には個人差がある
💩 IBSのタイプ別鍼灸治療プラン
①【IBS-D:下痢型】
■ 主な症状:
- 急な便意、軟便~水様便
- 食後すぐの腹痛・下痢
- ストレスで悪化しやすい
■ 鍼灸治療の目的:
- 腸の過剰な蠕動を抑制
- 自律神経の安定化(交感神経優位の抑制)
- 胃腸を温め、冷えを改善
■ 使用経穴の例:
- 天枢(てんすう):大腸の調整
- 神闕(しんけつ/おへそ):お灸で腹部を温める
- 足三里(あしさんり):胃腸機能全体の強化
- 内関(ないかん)・神門(しんもん):ストレス緩和
- 関元(かんげん):冷えと下腹部の強化
■ お灸との併用:
腹部(神闕、関元)への温灸が特に効果的。
②【IBS-C:便秘型】
■ 主な症状:
- 排便困難、硬便、残便感
- 腹部膨満感、ガスがたまる
- 冷え・運動不足も関与
■ 鍼灸治療の目的:
- 腸の蠕動促進
- 気血の巡りを改善
- リラックスと排便リズムの回復
■ 使用経穴の例:
- 天枢(てんすう):腸の動きを促す
- 大巨(だいこ):天枢の下、便通改善に
- 足三里(あしさんり):消化吸収促進
- 合谷(ごうこく):全身の巡りをよくする
- 太衝(たいしょう):ストレスによる停滞に
③【IBS-M:混合型】
■ 主な症状:
- 下痢と便秘を交互に繰り返す
- ストレス・食事・天候に影響されやすい
■ 鍼灸治療の目的:
- 消化管全体の調整
- 自律神経バランスの安定
- ストレス反応の緩和
■ 使用経穴の例:
- 中脘(ちゅうかん)+天枢(てんすう):胃腸機能全体に
- 太衝+神門:感情・精神の安定
- 足三里+三陰交:体全体の調整、冷え対策
④【IBS-U:分類不能型】
■ 特徴:
- はっきりしたパターンがない
- ストレスや疲労、環境要因が影響
■ 治療方針:
- 初回に症状・生活習慣・食事など詳細に確認
- 自律神経と腸内のバランスを整える「総合調整型」の施術
- 養生指導(睡眠・食事・運動)との併用が重要
🧭 治療スケジュール(共通)
期間 | 頻度 | 内容 |
---|---|---|
初期(1〜4週) | 週1〜2回 | 急性症状の改善、自律神経の安定 |
中期(5〜8週) | 週1回 | 腸内環境の調整・生活習慣の指導 |
維持期(9週〜) | 月1回(希望に応じて) | 予防・再発防止、体質改善 |
📋 セルフケア
- 温灸:自宅での「よもぎ温灸」や「せんねん灸」など
- 腹式呼吸・瞑想:副交感神経の活性化
- 軽い運動:ウォーキング、ヨガ
- 食事:低FODMAP食を推奨
「低FODMAP食(Low FODMAP Diet)」は、過敏性腸症候群(IBS)などの消化器症状を軽減するための食事法です。FODMAPは、腸で発酵しやすく、ガスや下痢、腹部膨満感などを引き起こす特定の炭水化物群の総称です。