「前立腺が痛い」「会陰部が重だるい」「長く座っていると違和感がある」──
こうした症状で泌尿器科を受診しても、「炎症はありません」「細菌は検出されません」と言われる。
それでも痛みや不快感が続く…。
そんな方に多いのが、慢性前立腺炎(非細菌性)**と呼ばれる状態です。
しかし実際には、この痛みの原因が**“前立腺そのもの”ではないこと**が多いのをご存じでしょうか?
最近の研究や臨床経験では、**筋肉や筋膜(きんまく)**と呼ばれる体のつながりが大きく関係していることが分かってきました。
■ 「筋膜」とは? 体を包む“もうひとつの神経ネットワーク”
筋膜とは、筋肉や内臓を包み、全身をつないでいる薄い膜のことです。
イメージで言うと、「体の中のクモの巣」や「全身タイツのようなネット」。
この膜が硬くなったり、ねじれたりすると、その部分だけでなく遠くの場所にも痛みや違和感を伝えてしまいます。
骨盤まわりの筋膜は、前立腺や膀胱・腸などの臓器とも密接につながっています。
そのため、骨盤の奥の筋肉がこわばると、「内臓が痛い」と錯覚してしまうことがあるのです。
■ 「痛みの正体」は筋肉や筋膜のこわばり?
長時間のデスクワーク、車の運転、ストレス、不眠──
これらはすべて、骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)という体の奥の筋肉を緊張させます。
この筋肉は、まさに前立腺の下で臓器を支える“受け皿”のような存在。
ここが固くなると、血流が悪くなり、神経が敏感になり、
「前立腺が痛い」「排尿時に違和感がある」と感じやすくなります。
実際には、痛みの中心は「筋膜のこわばり」──つまり筋膜性骨盤痛(myofascial pelvic pain)であるケースが多いのです。
■ 筋膜ライン(全身のつながり)から見た骨盤の痛み
最近では、解剖学的な研究から全身の筋肉や筋膜が線のようにつながっていることが分かっています。
これは「アナトミートレイン(筋膜ライン)」と呼ばれる理論で、
骨盤からお腹、胸、首までが一本のラインで連動しているのです。
そのため、たとえば
- 猫背や反り腰による姿勢の崩れ
- 腸腰筋や内ももの張り
- 呼吸の浅さ
なども、骨盤内部のこわばりや痛みに影響します。
前立腺炎のような骨盤の症状を改善するには、骨盤だけを見るのではなく、体全体の筋膜のバランスを整えることが大切なのです。
■ 鍼灸で筋膜の“ねじれ”をゆるめる
鍼灸は、この筋膜の深い層に直接アプローチできる数少ない治療法です。
髪の毛ほどの細い鍼が筋膜を通過すると、その周囲の組織がゆるみ、血流が戻っていきます。
結果として、神経の過敏さが落ち着き、痛みが軽くなることがあります。
筑波大学などの研究では、鍼刺激によって**自律神経(とくに副交感神経)**が整い、
筋緊張や内臓の血流が改善することが報告されています。
つまり、鍼灸は「体をリラックスさせながら、筋膜の深い部分をゆるめる治療」なのです。
■ 実際の施術では…
にしむら鍼灸治療院では、慢性前立腺炎や骨盤痛の方に対して、
痛みの出ている部位だけでなく、腰・お腹・内もも・ふくらはぎなど、
体のつながりを意識した施術を行っています。
とくに、腸腰筋(ちょうようきん)や内閉鎖筋(ないへいさきん)といった
“骨盤の奥の筋肉”にアプローチすることで、
骨盤内の血流を整え、痛みの悪循環を断ち切ることを目的としています。
■ 痛みの原因を「ひとつ」に決めつけないことが大切
「慢性前立腺炎」と診断されても、原因は人によってまったく違います。
筋膜のこわばり、自律神経の乱れ、ストレスによる呼吸の浅さ──
どれもが複雑に絡み合い、症状を作り出しています。
だからこそ、体の全体バランスを整える鍼灸は、
こうした“原因の複合型”の症状にとても相性が良いのです。
■ まとめ
慢性前立腺炎の痛みは、必ずしも「前立腺そのもの」に原因があるわけではありません。
その多くは、骨盤の筋肉や筋膜の緊張、そしてそれを支える自律神経の乱れが関係しています。
鍼灸で体の深部にある筋膜のねじれをゆるめることで、
血流が戻り、神経の過敏さが落ち着き、自然と体が回復する力を取り戻していきます。
「病院で異常がないのに痛みが続く」──
そんな方は、ぜひ一度、筋膜の視点から身体を整えてみてください。