“女性の陰部神経痛”に潜む見逃されやすい真実
「下腹部がチクチクする」「座ると陰部が痛い」「婦人科で異常がないと言われたのに痛みが続く」──。
こうした訴えを持つ女性は少なくありません。
実は、こうした症状の背後に**「陰部神経痛(Pudendal Neuralgia)」**という病気が潜んでいることがあります。
しかし、この疾患はまだ日本では一般的に知られておらず、婦人科・整形外科・精神科を転々としながら原因がわからず苦しむ方が多いのが現状です。
陰部神経痛とは?──婦人科疾患と誤診される理由
陰部神経は、仙骨(尾てい骨の少し上)から出て骨盤の内部を走り、外陰部・肛門・尿道などの感覚や筋肉の働きを司る神経です。
この神経が何らかの原因で圧迫や炎症を起こすと、鋭い痛み・灼熱感・違和感が生じます。
特徴的な症状は以下の通りです。
- 外陰部(膣口周囲、肛門、尿道周辺)の痛み・灼熱感
- 長時間座ると痛みが悪化する
- 寝ている時や立っている時は比較的楽になる
- 検査では異常が見つからない
これらは婦人科疾患(外陰炎・膣炎・子宮内膜症など)とも似ているため、
「婦人科で異常なし」と言われた後も痛みだけが続く──というケースが少なくありません。
なぜ“女性”の陰部神経痛は見逃されやすいのか
① 婦人科との症状の重なり
外陰部や膣口周囲の痛みがあると、多くの方が婦人科を受診します。
しかし婦人科では、炎症・感染・ホルモンの異常がない限り「異常なし」とされることが多く、
神経や筋肉由来の痛みは診断の対象外になることが多いのです。
② 検査に“異常が出ない”病気
MRIや血液検査などでは、陰部神経の圧迫や炎症は映りません。
そのため、「気のせい」「自律神経の乱れ」と言われることもあります。
しかし実際には、神経の走行部分(仙棘靭帯・仙結節靭帯の間など)で微細な圧迫や炎症が起きていることが多いのです。
③ 「座ると痛い」という特有のサイン
陰部神経痛の大きな特徴は、「座位で痛みが強くなる」という点です。
長時間のデスクワーク、自転車、骨盤の歪みなどで神経が圧迫され、痛みが誘発されます。
このサインを見逃さないことが、早期発見の鍵です。
陰部神経痛の背景にある“生活習慣と構造の問題”
女性の陰部神経痛は、単なる神経炎症ではなく、骨盤構造や筋肉バランスの問題が根底にあります。
1. 長時間座位・デスクワーク
骨盤の底で陰部神経が物理的に圧迫され、慢性的な炎症が起こる。
特に「骨盤を後傾させて座る」姿勢が神経を締めつけやすい。
2. 出産後の骨盤底筋障害
分娩時に神経が過伸展され、回復しきらないまま慢性痛化するケースがあります。
産後の「違和感」「排尿痛」「性交痛」が長く続く場合は、この神経痛の可能性を疑うべきです。
3. 骨盤底筋の過緊張(ストレスによる影響)
心理的ストレスが強いと、無意識に骨盤底が収縮し、
“神経を締めつける”ような状態が続きます。
このタイプは、ストレス性の膀胱症状や便秘・不眠を伴うことも少なくありません。
「検査で異常なし」でも続く痛み ─ その苦しみを理解する
陰部神経痛の最大の問題は、理解されにくい痛みであることです。
「どこが痛いのか説明しづらい」
「家族やパートナーに理解されない」
「医師に“気のせい”と言われた」
こうした心理的孤独は、症状そのものを悪化させることがあります。
痛みと孤独が互いに影響し、慢性化していく。
この悪循環を断ち切るには、身体と心の両面からのアプローチが必要です。
治療の最前線 ─ “神経リリース”と“鍼灸・理学療法の融合”
陰部神経痛の治療は、原因のタイプによって使い分けることが重要です。
西洋医学的アプローチ
- 陰部神経ブロック注射(超音波ガイド下)
→ 神経の炎症を直接抑制 - 骨盤底筋リハビリ・理学療法
→ 過緊張を和らげることで圧迫を軽減
東洋医学・鍼灸アプローチ
近年、鍼灸がこの疾患に対して有効であることが報告されています。
鍼刺激によって、
- 骨盤神経叢の血流改善
- 陰部神経の興奮抑制
- 骨盤底筋の弛緩
- 自律神経のバランス回復
といった効果が期待されます。
実際の臨床では、仙骨部(S2〜S4)や坐骨周囲にアプローチし、
「座ると痛かった症状が軽減した」というケースが多く見られます。
痛みは“体からのサイン”──女性の体に寄り添う新しい視点
陰部神経痛は単なる「局所の痛み」ではなく、
**女性の体が「助けを求めているサイン」**です。
- 骨盤のゆがみ
- 自律神経の乱れ
- ストレスによる筋緊張
これらが複雑に絡み合って、痛みとして現れています。
したがって、痛み止めだけでは根本的な解決にはなりません。
骨盤全体の構造・神経・心身のバランスを整える治療が必要です。
まとめ ─ 婦人科で異常がなくても“神経”を疑って
婦人科で異常がなくても、痛みがあるならそれは“気のせい”ではありません。
その痛みは、神経が発しているSOSです。
陰部神経痛を知ることは、
長年「原因不明」と言われてきた女性たちに希望の道筋を与える第一歩です。
もしあなたが、
「椅子に座るのがつらい」「下腹部の痛みが続く」「婦人科では異常なし」
という症状で悩んでいるなら、
一度「陰部神経痛(Pudendal Neuralgia)」という病気を専門的に診てもらうことをおすすめします。