大阪狭山市 にしむら鍼灸治療院 慢性前立腺炎などの「慢性骨盤痛症候群」専門鍼灸院
「泌尿器科で薬を処方されたけれど、なかなか症状が変わらない」
「会陰部や下腹部の痛み・違和感が長く続いている」
「座っていると骨盤周辺がつらく、仕事にも集中できない」
このような悩みを抱えている男性は少なくありません。
慢性前立腺炎と診断されたものの、検査では大きな異常が見つからず、症状が長期間続いている場合には、慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)という状態が関係している可能性があります。
そして現在、CP/CPPSに対する治療の研究では、鍼治療についても複数のランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスが報告されています。
この記事では、2021年に『Annals of Internal Medicine』に掲載されたRCTと、2022年に『European Urology Open Science』に掲載されたシステマティックレビュー・メタアナリシスなどをもとに、
- 鍼治療でどのような改善が研究されているのか
- 慢性前立腺炎の痛みと鍼治療をどう考えるのか
- なぜ骨盤周辺の痛みに鍼治療が用いられるのか
- どのようなケースで治療を考えるとよいのか
を分かりやすく解説します。*メタアナリシス(メタ解析)とは、同じテーマについて行われた複数の独立した研究の結果を集め、統計学的に統合してより信頼性の高い結論を導き出す手法です。
慢性前立腺炎・CP/CPPSとは?
まず知っておきたいのが、「慢性前立腺炎=前立腺に細菌が感染している」わけではないということです。
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)では、
- 会陰部の痛み・違和感
- 下腹部の痛み
- 鼠径部の不快感
- 陰茎・陰嚢周辺の違和感
- 排尿時の不快感
- 頻尿
- 射精時の痛み
- 座っていると骨盤がつらい
など、さまざまな症状が現れることがあります。
症状の出方には個人差が大きく、前立腺だけを見ても十分に説明できないケースがあります。
そのため現在では、CP/CPPSを前立腺だけの問題ではなく、骨盤周辺の筋肉・神経・痛みの感じ方などが複雑に関係する慢性疼痛の一つとして捉える考え方があります。
鍼治療は本当にCP/CPPSの症状を改善するのか?
ここが今回の記事で最も重要なポイントです。
結論からいうと、
「CP/CPPSに対する鍼治療は、症状、特に痛みの改善に有効である可能性を示す研究が複数存在する」
というところまでなら、現在の研究結果から説明できます。
一方で、
「誰にでも効く」「完全に治る」「鍼だけで原因を取り除ける」
と断定することはできません。
では、実際の研究を見てみましょう。
① 440人を対象としたランダム化比較試験
2021年、『Annals of Internal Medicine』に、CP/CPPSに対する鍼治療の効果を調べた大規模なランダム化比較試験が掲載されました。
この研究では、440人の男性が対象となり、鍼治療群と偽鍼群に分けて比較されています。
8週間で20回の治療を行い、その後24週間にわたって経過を追跡しました。
その結果、8週時点で、
- 鍼治療群:60.6%
- 偽鍼群:36.8%
が、NIH-CPSIという慢性前立腺炎・骨盤痛の評価尺度で、臨床的に意味のある改善を示しました。
つまり、単純に「鍼を受けた人の60.6%が治った」という意味ではありません。
症状スコアが一定以上改善した人の割合が、偽鍼群より鍼治療群で高かったという結果です。
さらに研究では、治療終了後24週の時点でも、鍼治療群の改善効果が維持されていました。
これは、CP/CPPSに対する鍼治療を考えるうえで非常に興味深い結果です。
② 2022年のメタアナリシスでも「痛み」の改善を確認
さらに2022年、『European Urology Open Science』に、CP/CPPSに対する鍼治療について12件のランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビュー・メタアナリシスが掲載されました。
この研究では、
「鍼治療 vs 偽鍼」
「鍼治療 vs 薬物療法」
「鍼治療+薬物療法 vs 薬物療法」
などを比較しています。
その結果、鍼治療はNIH-CPSIの総合スコアだけでなく、特に痛みのスコアの改善において有利な結果を示しました。
また、排尿症状やQOLについても改善が認められています。
研究者らは、CP/CPPSに対する鍼治療について、特に痛みの軽減に有効である可能性を示しています。
では、なぜ鍼治療で骨盤周辺の痛みが変化するのか?
ここからは少し専門的な話になります。
CP/CPPSの症状には、
筋肉・神経・自律神経・痛みの感受性など、複数の要素が関係している可能性があります。
そのため、鍼治療についても「前立腺そのものを直接治療する」というより、
骨盤周辺の痛みを生み出している複数の要素に対して刺激を加える
という考え方が重要になります。
1.骨盤周辺の筋肉の緊張に着目する
慢性的な骨盤痛を抱えている人では、骨盤底周辺の筋肉に過剰な緊張や圧痛が認められることがあります。
特に、
- 骨盤底筋
- 内閉鎖筋周辺
- 梨状筋周辺
- 臀部の筋肉
- 腰部・仙骨周辺の筋肉
などが関係するケースがあります。
こうした筋肉の緊張が痛みの一因となっている場合には、筋肉への鍼刺激によって局所の過緊張や痛みの感覚に変化が起こる可能性があります。
ただし、CP/CPPSのすべてが筋肉の問題というわけではありません。
ここは非常に重要です。
2.痛みを感じる神経系にアプローチする
慢性的な痛みでは、痛みを伝える末梢神経だけではなく、脳や脊髄を含む痛みの処理システムそのものが過敏になっている可能性があります。
鍼刺激については、末梢から中枢神経系にさまざまな刺激が入力され、その結果として内因性オピオイドなどを含む鎮痛機構が関与することが研究されています。
そのため、
「鍼を刺した場所だけを治す」
という単純な考え方ではなく、
「鍼刺激によって痛みを調節する神経系に働きかける」
という視点が重要になります。
ただし、CP/CPPSにおいて、このメカニズムだけですべての症状改善を説明できるわけではありません。
3.骨盤周辺の循環にも関係する可能性
鍼刺激によって局所の血流や組織反応が変化することは研究されています。
そのため、骨盤周辺の筋肉が長期間緊張しているケースでは、局所の循環や組織環境に変化が生じる可能性があります。
ただし、
「血流を改善して前立腺に溜まった炎症物質を洗い流す」
というところまで、CP/CPPSに対する鍼治療の効果として証明されているわけではありません。
このため、医学的には、
「鍼によって血流が良くなるから慢性前立腺炎が治る」
と単純化しないことが大切です。
「前立腺に直接鍼をする」の?
ここも誤解されやすいところです。
CP/CPPSに対する鍼治療では、研究によって使用されるツボや治療方法が異なります。
2022年のメタアナリシスでも、研究ごとに使用された経穴や治療方法には違いがありました。
つまり、
「慢性前立腺炎だから、この場所に必ず鍼をする」
という一律の治療ではありません。
症状が、
- 会陰部中心なのか
- 下腹部中心なのか
- 鼠径部なのか
- 臀部なのか
- 座位で悪化するのか
- 排尿症状が強いのか
- 筋肉の緊張が強いのか
によって、治療方針を考える必要があります。
薬で変化が乏しい場合、鍼治療を考えてもいい?
CP/CPPSの治療は、患者さんの症状や経過によって異なります。
薬物療法が行われることもありますが、症状が長期間続く場合には、薬だけでなく、生活習慣、運動、骨盤底筋の状態、心理・ストレス要因などを含めて総合的に考える必要があります。
その選択肢の一つとして、
鍼治療を検討することは、研究結果からも一定の根拠があります。
ただし、鍼治療を受ける場合でも、泌尿器科で必要な検査や診断を受けることは大切です。
特に、
- 発熱
- 血尿
- 強い排尿痛
- 尿が出にくい
- 急激に悪化した症状
などがある場合には、鍼灸院だけで判断せず、医療機関への相談を優先してください。
慢性前立腺炎・CP/CPPSの鍼治療で大切なのは「症状を一つに決めつけない」こと
慢性前立腺炎・CP/CPPSの難しいところは、同じ診断名でも症状が人によって大きく違うことです。
例えば、
「会陰部が痛い」
という共通した症状があっても、
- 骨盤底筋の緊張が強い人
- 臀部の筋肉に問題がある人
- 腰や仙骨周辺の痛みを伴う人
- 座位で症状が悪化する人
- 排尿症状を強く感じる人
- 神経の過敏性が関係していると考えられる人
など、背景は同じとは限りません。
だからこそ、
「慢性前立腺炎だから、このツボ」
ではなく、
「その人の症状が、どこから生じている可能性があるのか」
を考えながら施術することが重要です。
鍼治療は「慢性前立腺炎を治す魔法」ではありません
ここは、あえて強調しておきたい部分です。
現在の研究から、
鍼治療はCP/CPPSの症状、特に痛みの改善に役立つ可能性がある
ことは示されています。
一方で、
すべての患者さんに効果があるわけではなく、鍼治療だけで病気が完全に治ると証明されたわけでもありません。
CP/CPPSは症状が複雑で、患者さんによって関係する要素も異なります。
だからこそ、鍼灸では「病名だけ」を見るのではなく、
痛みの場所、症状が悪化する姿勢、筋肉の緊張、日常生活、睡眠やストレスなどを含めて身体全体を評価すること
が重要だと考えています。
まとめ|長引く骨盤周辺の痛みに、鍼治療という選択肢
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)は、症状が長引くことで仕事や日常生活にも影響することがあります。
現在までの研究では、鍼治療について、
- CP/CPPSの症状スコアの改善
- 骨盤周辺の痛みの軽減
- 排尿症状の改善
- QOLの改善
などを示す研究が報告されています。
特に2021年の440人を対象としたランダム化比較試験では、鍼治療群で臨床的に意味のある症状改善を示した人の割合が、偽鍼群より高い結果となりました。
また、2022年のシステマティックレビュー・メタアナリシスでも、CP/CPPSに対する鍼治療は、特に痛みの軽減に有効である可能性が示されています。
「薬を飲んでいるけれど、骨盤周辺の痛みが長く続いている」
「検査では大きな異常がないのに、会陰部や下腹部の違和感が続いている」
「座っていると骨盤周辺がつらい」
このような場合には、現在受けている医療を大切にしながら、鍼治療という別のアプローチについて知っておくことも一つの選択肢です。
参考文献
- Sun Y, et al. Efficacy of Acupuncture for Chronic Prostatitis/Chronic Pelvic Pain Syndrome: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2021;174(10):1357-1366. doi:10.7326/M21-1814.
- Qin Z, et al. Acupuncture for Chronic Prostatitis/Chronic Pelvic Pain Syndrome: A GRADE-assessed Systematic Review and Meta-analysis. European Urology Open Science. 2022;46:55-67. doi:10.1016/j.euros.2022.10.005.
- Acupuncture for Chronic Prostatitis or Chronic Pelvic Pain Syndrome: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis. 2023.
- Optimal acupoint and session of acupuncture for patients with chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome: a meta-analysis. 2021.
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